ボードゲームレビュー第55回「アビス」

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「アビス」(原題:ABYSS)
発売元:Bombyx / Asmodee /日本語翻訳:ホビージャパン
作者:ブルーノ・カタラ/シャルル・シュヴァリエ
プレイ人数:2~4人用
対象年齢:14歳以上
プレイ時間:45~60分


 

「おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ」――フリードリヒ・ニーチェ

 皆様、初めまして。もしくはお久し振りです。
 ゲーム&シナリオ制作チーム「Team・Birth-tale」代表の綺月と申します。

 今回は「アビス」という、深海の覇権を競うボードゲームをご紹介します。
 深海と言えば、宇宙と並ぶ人類のフロンティア、今だ全貌が明らかにならぬ、未知の深淵です。
 私などはジェームズ・キャメロン監督の同名の映画や、某「生まれた意味を知るRPG」を思い出してしまうのですが、それほど人を惹きつけて止まない未踏の地、深海。
 そして我々プレイヤーは人類ではなく、かの深淵の覇権を掛けて競い合う、大洋の支配者なのです。
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 外箱のイラストは、恐ろしくも美しい深海の実力者達のイラストで、なんと5種類も同時発売されています。
 彼らの姿は大いなる水の邪神の眷属もかくやという、個性豊かな深淵の住人。青いイカ、緑のカイ、黄色いタツノオトシゴ、真っ赤なカニ、紫なクラゲと、何ともカラフルです。
 和食文化の申し子である取材会のプレイヤー達は、ついつい海産物扱いしたのですが、彼らは意外と文明的でして。
 地域を治める有力な貴族たちと、議会に参加する支援者がいる、身分制議会での権力闘争が本作のテーマなのです。

 ゲームの目的は、最も高い影響力を得ること。影響力は獲得した地域、貴族、倒した怪物、そしてわずかですが、支援からも得られます。
 深淵の覇者たらんとするプレイヤーは深海を探索して、支援者や富の象徴である真珠を獲得していきます。
 そして貴族や地域を獲得し、彼らの能力を駆使して有利な効果を得たり、他のプレイヤーを妨害するのです。
 誰かが7人目の貴族を雇用するか、宮廷のマス目に貴族を補充しきれなくなった場合に最後の一巡となり、ゲーム終了時に最大の影響力を獲得したプレイヤーが勝者となります。

 本作のゲーム設計はしっかりしており、初プレイでもプレイヤーが行うことは、きちんと整理して示されています。
 一方で「どうすれば勝てるか?」の部分は、先に皆で確認しておいた方がいいでしょう。
 本作の特徴として「使用者のみ○○を得る」「他の対戦相手は○○する」という、自分のみ得をし、自分以外に厳しい制限を与えるよう「効果」がデザインされています。
 たった一枚の「貴族」や「地域」で、がらりと有利不利が変わりますのが、要注意ポイントです。

 勝つために重要なのは、「貴族」や「地域」が持つ「効果」です。
 簡単には稼げない勝利条件の「影響力」や、その元手となる「真珠」や「支援」をうまく入手するのに、「効果」は威力を発揮します。
 さらに「貴族」「地域」の「効果」を増幅するコンボや、ライバルを出し抜き、あるいは厳しく妨害する「効果」を使えば、より有利にゲームを進められます。
 「領地」を獲得するために必要な「鍵」は、思ったより入手が難しく、「貴族」の「効果」も行き当たりばったりで使ってしていては、もったいないからです。
 ですから「貴族」と「領地」を皆で一通り確認してから、ゲームをセッティングするといいでしょう。

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 では、ゲームの準備からプレイまでご説明しましょう。
 まずはボードを広げます。そしてシャッフルした「探索」カードを「探索」トラックの山札置き場に、「貴族」カードの山を「宮廷」の山札置き場に、それぞれ裏向きでセットします。
 ボードの周囲にシャッフルして裏向きにした「地域」タイルの山と「怪物」トークン、「脅威」トークンをセットした「脅威」タイル、「鍵」トークンを置きます。
 そして「地域」タイルの山から一番上のタイルを1枚、表向きにしてボードの側に置きます。なお表向きの「地域」が無くなった場合、表向きの1枚が常にあるように補充するかどうか、マニュアルに書かれていません。
 なので表向きの「地域」がない場合は山札から1枚を表向けて補充してもいいですし、あるいはその時の手番プレイヤーが「地域の支配」行う場合、2つめの手番が強制されてもいいでしょう。
 不公平が出ないよう、あらかじめ決めておくと良いかと思います。
 最後に真珠を各プレイヤーに1個、それぞれのカップに入れて渡します。余った真珠とカップはボードの脇に置くか、取りにくければボードの空いた場所に置くといいでしょう。
 最後にスタートプレイヤーを決めれば、準備完了です。

 いよいよゲーム開始です。プレイヤーの手番は、時計回りで巡ります。
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 まず手番の開始時に「宮廷での策謀」を行います。
 「宮廷での策謀」は手番の開始時に行える、任意の行動です。行わなくても構いません。
 真珠1個を支払い、宮廷の空白のマスに貴族を1枚、山札から表向きにして置きます。
 宮廷に空白マスがあり、貴族の山札にカードが残っていて、真珠が払えれば、何度でも行えます。

 次に「深海の探索」「議会の支持を求める」「貴族を雇用する」の3つのアクションの、いずれか1つを選んで行います。
 選んだアクションが終われば、手番を次のプレイヤーに回します。
 ただしアクションの結果、鍵が3つ揃う場合があります。その場合「地域の支配」の処理も、その時に行います。

 「深海の探索」は、「探索」トラックに「探索」カードを公開していくアクションです。
 「探索」で発見した「支援」を手に入れたり、あるいは「支援」を売買して「真珠」を入手したり、怪物と戦って「真珠」「影響力」「鍵」を手に入れることができます。
 消費せず何かを得られるため、アクションの基本となるでしょう。ただしローリスクローリターンです。
 手番プレイヤーは「探索」トラックの山札から1枚、「探索」カードを表向きに公開して、山札に最も近いマスに置きます。
 「探索」カードは「支援」と「怪物」の2種類で、異なる処理を行います。また「支援」に書かれた四角い箇所の数字は、「貴族」を雇用するのに必要な「コスト」の数で、大きいほど有利です。
 公開されたカードが「支援」の場合、自分以外のプレイヤーに、購入するか聞きます。優先順位は手番プレイヤーから時計回りの順でいいでしょう。
 この手番で購入できるのは、各プレイヤー1枚だけです。そしてこの手番の1枚目の売買なら真珠1個、2枚目の売買なら2個と、1個ずつ価格が上昇します。
 誰も「支援」を購入しなかった場合、手番プレイヤーがこの「支援」を手札に加えることができます。手札に加えた場合、手番が終了します。
 手札に加えなかった場合はそのマスに「支援」を置いておき、次のマスに新たな「探索」カードを公開します。
 「怪物」が公開された場合、手番プレイヤーは戦うか戦わないか選びます。戦った場合は、「脅威」タイルの「脅威」トークンが示す報酬を得て、手番を終了します。報酬は「真珠」「怪物トークン」「鍵」です。「怪物トークン」では「影響力」が稼げます。
 戦わなかった場合は、「脅威」トークンを下に1マス分進めて、「探索」トラックのそのマスに「怪物」を置いておき、次のマスに新たな「探索」カードを公開します。
 「探索」トラックの最後のマスでは、売買されなかった「支援」の入手、あるいは怪物退治を必ず行い、真珠1個をボーナスとして得て手番を終了します。
 また「支援」が購入されてマスが空いた場合、そのマスに新たな「探索」カードを公開します。手番プレイヤーのチャンスが増えるのです。
 なお「探索」中に「探索」カードの山札が尽きたら、「探索」カードの捨て札置き場のカードをシャッフルして、山札にして下さい。
 探索が終わったら、「探索」トラック上の「怪物」を「探索」カードの捨て札置き場に置き、「支援」は議会の各種族(色別になってます)のトラックに裏向きで重ねます。
 そして「脅威」トークンを脅威タイルの一番上に置き直します。
 
 「議会の支持を求める」は、議会上の各種族のトラックに置かれた「支援」のどれかを、裏向きのまま一山、手に入れます。
 好きな種族の「支援」を大量に手に入れるチャンスですが、複数の種族を手に入れられないのが悩ましいところです。
 マニュアルでは「その内容を見てはいけません」と書いてありますが、これは「入手前に山の内容を見て選んではいけない」ということでしょう。
 なので入手後は、見ても良いと思います。
 一山入手したら、手番終了です。

 「貴族を雇用する」は、宮廷のマスにある「貴族」を1人だけ、雇用することができます。
 「貴族」は「影響力」をもっとも得やすく、そして「地域」による増幅を受けやすい重要なカードです。その「効果」も強力です。
 雇用するには「貴族」のカードに書かれている「コスト」を、必要な種類分の「支援」で支払う必要があります。
 色のついている大きな「泡」が、必ず含まなければならない「支援」の種族を示します。その上に書かれた無色の泡は、追加で必要な種類の数です。
 例えば「コスト」10で紫色1つと無色2つなら、紫のクラゲと、他に2種類の「支援」の合計で10以上の「コスト」が必要です。
 「コスト」は以上であれば大丈夫ですが、お釣りは返ってきません。
 そして「コスト」として払った「支援」のうち、もっとも数字の低い「支援」を、自分の元に「所属」して残します。これは手札とは区別して置いて下さい。得点計算時に「コスト」が「影響力」として加算されるのです。
 他の「コスト」として支払った「所属」は、「探索」カードの捨て札置き場に置きます。
 「貴族」の雇用が終わったら、残った「貴族」は右に詰めてずらします。
 もし宮廷の「貴族」が2人以下になっていたら、山札から宮廷の空いている全てのマスに「貴族」を補充し、手番プレイヤーは真珠を2つボーナスとして得ます。
 こうして「貴族」を入手したら、手番終了です。

 「地域の支配」は、手番中に「鍵」が3つそろったら、必ず行わなければならない処理です。
 支配した「地域」は、獲得した「影響力」を大きく増幅させる手段です。また単体でも多くの「貴族」より、高い「影響力」を持つこともあります。
 「鍵」は「探索」の報酬で得られる「鍵」トークンだけでなく、「鍵」を持つ(描かれている)「貴族」もいます。
 「鍵」トークンと「貴族」の持つ鍵の合計が3つ以上になったら、必ず「地域」をタイルを得て支配しなくてはなりません。そして「鍵」が描かれた「貴族」は、その「地域」の支配に必ず使います。
 「地域」の支配に使った「鍵」トークンは、「鍵」トークン置き場に戻します。そして「貴族」はその能力を隠す様にして、「地域」タイルの下に置きます。
 「地域」タイルの下に置かれた「貴族」は「効果」を使えなくなりますが、同時に他の貴族の「効果」を受けなくなります。また「影響力」は計上されます。
 「地域」の入手方法は、2通りあります。
 1つめは表向きに置かれている、選択可能な「地域」から1枚を選び入手します。ゲーム開始時は1枚しか表向きになっていませんが、複数枚が表向きで置かれる状況も生じます。
 2つめは「地域」タイルの山札から4枚「地域」タイルを引いて、その中から1枚を選んで入手する方法です。残った3枚は表向きでボードの側に置き、次以降の手番で選択できるようになります。自分にも他のプレイヤーにも、選択の幅を与えるのです。
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 以上、各プレイヤーが順番に自分の手番を繰り返し、誰かが7人目の「貴族」を雇用するか、宮廷に「貴族」が補充しきれなくなったら、その手番プレイヤーの手番終了後、他のプレイヤーの手番を1回ずつ順に行います。
 それが終わったら「影響力」を集計して、勝者を決定するのです。
 特に気をつけたいのは、「地域」による「影響力」の増幅と、「所属」した「支援」の計算です。
 「所属」した「支援」は、各種族ごとに、最も「コスト」が高い「支援」が、その「コスト」分の「影響力」になります。
 なので、できるだけ高い「支援」を「所属」させるのも、「影響力」を稼ぐテクニックでしょう。

 かくして集計を終えて勝者が決まれば、そのプレイヤーが深海の覇者として君臨するのです!

 この「アビス」は、ゲーム中のプレイはシンプルですが、影響力を稼ぐ手段が複数あり、コンボなどで様々な勝ち方が選べます。
 でも有利なコンボなら確実に勝てると言うわけでもなく、他のプレイヤーのコンボや稼ぎ方次第では逆転されたり、最後の一巡で番狂わせも生じます。
 単純に高い「影響力」を稼ぐ一点突破も十分な脅威となりますし、他のプレイヤーのコンボを崩す「効果」も結構あるので、油断大敵。
 他のプレイヤーの手番でも、「探索」での売買などでけして手持ち無沙汰になりませんし、ついつい真珠入れの中で真珠を転がしてみたりも。
 実に奥深く遊べる、懐の深いゲームだと思います。プレイ自体はシンプルですし、初心者とも熟練者とも遊び手を選ばず、何度も遊べるでしょう。
 またあえて深海という異世界をモチーフにしてるので、その世界観や雰囲気を楽しめますし、現実から離れて気軽に妨害し合って遊びやすいと思います。
 コンポーネントも良くできていて、なかなかの良作と言えます。

 あなたはいかなる戦略を用いて深海の宮廷を闊歩し、議会を牛耳って深淵を制覇するのか。
 巧みな駆け引きとカードマネージメント、そしてコンボを競い合う、熾烈な権力闘争をぜひ勝ち抜いて下さい!

 

ライター紹介

綺月鏡水(きづき きょうすい)
 ゲーム制作チーム「Team・Birth-tale」代表。
 ゲームシナリオライター・プランナー・シナリオディレクター
 専門学校講師「ゲームシナリオ・ゲーム企画等」
 アナログ、デジタルを問わずゲーム好き。
 メカアクションやファンタジー、戦記物、ラブコメなどのゲームシナリオを主に執筆。

代表作
 歴史シミュレーションゲーム「三極姫」シリーズ。
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 その他、多数。